ITエンジニアなのに年収が上がらない理由と対処法【経験者向け】

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実務経験は積んでいる。担当する範囲も広がった。それなのに、給与明細の数字だけが去年とほとんど変わらない——。この記事は、そういう状態にいる経験者のITエンジニアに向けて書いています。

先に、この記事の立場をはっきりさせておきます。年収が上がらない原因を「あなたの努力不足」に置く記事は多いのですが、公的な統計を並べていくと、個人の頑張りより先に効いている要因がいくつも見えてきます。まずそれを分解します。そのうえで、いま動くべきか、動かないほうがいいかまで含めて書きます。

  • 年収が上がらないのは本人の問題か、構造の問題かの切り分け方
  • 公的統計で見る、年齢ごとの実際の賃金カーブ(厚生労働省の最新調査)
  • 多重下請け構造で、単価がどう削られて手元に届くのか
  • SES・受託開発・自社サービスで年収の伸び方がどう違うか
  • 社内評価制度の限界と、スキルの「市場価値」と「社内価値」のズレ
  • 年収交渉が通るケースと、まず通らないケースの見分け方
  • 転職以外の選択肢(社内異動・副業・資格)の現実的な効き目
  • 20代・30代・40代で変わる打ち手
  • 年収を上げに動かないほうがいい場合もあること

私は飲食店を10店舗以上運営し、採用と育成を15年やってきました。IT企業で働いた経験も、IT業界の採用実務の経験もありません。ですので、この記事で「IT業界の内側ではこうなっている」と語ることはしません。数字はすべて公的統計や公開データから引き、出典を明記します。そのうえで、業種を問わず共通する「評価する側・給与を決める側の考え方」については、店舗事業を経営してきた立場からの見方として、そうと分かる形で書きます。

  1. 結論:年収が上がらない原因は、たいてい「実力」より手前にある
  2. まず現在地を測る|公的統計で見る本当の賃金カーブ
    1. 情報通信業の賃金は、産業計より約3割高い
    2. 年齢別|情報通信業の賃金は50代後半まで伸びている
    3. 雇用形態でも差が出る
    4. スキルレベル別|どの工程を担当しているかで年収中央値が変わる
  3. 核心|多重下請け構造で、あなたの単価はどう削られるのか
    1. 商流とは「案件があなたに届くまでに何社を経由したか」
    2. ここで二重の不利が起きる
    3. 単価が上がっても給与に反映されないことがある
  4. SES・受託開発・自社サービス|年収カーブの形が違う
    1. SES(客先常駐)|入口は広く、中盤で詰まりやすい
    2. 受託開発|工程の幅は出るが、利益率に縛られる
    3. 自社サービス(事業会社)|事業と連動するが、席が少ない
    4. フリーランス|額面は上がりやすいが、比べる数字が変わる
  5. 社内評価制度の限界|実力があっても上がらない仕組み
    1. 在籍年数で上がる会社では、実力は加速要因にならない
    2. 等級の上限が、そのまま年収の上限になっている
    3. 評価する人が、あなたの仕事を理解していないことがある
    4. 「市場価値」と「社内価値」はズレる
  6. 年収交渉|通るケースと、まず通らないケース
    1. 通りやすいケース
    2. まず通らないケース
    3. 切り出し方は「要求」ではなく「確認」から
  7. 転職以外の選択肢|先に検討する価値があるもの
    1. 社内異動|商流と工程を変えられる可能性がある
    2. 役割を変える|技術力の向上とは別の軸
    3. 副業|金額より「市場価値の実測」に意味がある
    4. 資格|直接の昇給効果は限定的。使いどころが別にある
  8. 転職する場合|順番を間違えないための手順
    1. 先に現在地を数字で把握する
    2. 次に、持ち出せる実績を棚卸しする
    3. そのうえで求人を見て相場を確認する
    4. 面談で必ず確認すべきこと
  9. 年齢別|打ち手が変わります
    1. 20代|金額より、経験できる工程を優先する
    2. 30代|構造の問題は、ここで決着をつけたい
    3. 40代|金額より、任される範囲と継続性を見る
  10. 逆に「いま年収を上げに動かないほうがいい」ケース
    1. いま上流工程の経験を積んでいる途中の場合
    2. 年収以外の条件が、金額に換算して大きい場合
    3. 働き方を変えられない事情がある時期
    4. そもそも金額が不満の本体ではない場合
  11. 実務経験を活かして動くと決めたときの進め方
  12. よくある質問
    1. スキルを上げれば年収は上がりますか
    2. 何年目で動くのが有利ですか
    3. 資格を取れば年収は上がりますか
    4. 社内で年収交渉はできますか
    5. フリーランスになれば年収は上がりますか
    6. 40代からでも年収は上げられますか
    7. いまの会社に不満はないのに年収だけ低い場合はどうすればいいですか
    8. 自分の単価は聞いてもいいものですか
  13. まとめ|努力の前に、いる場所を確認する

結論:年収が上がらない原因は、たいてい「実力」より手前にある

最初に結論を書きます。年収が上がらないとき、原因は次の3つの層のどこかにあります。そして下の層ほど、個人の努力では動かせません

何が決めているか 個人の努力で動くか
第1層:商流 会社が案件を何次請けで受けているか ほぼ動かない(会社を変えるしかない)
第2層:制度 その会社の給与テーブル・昇給ルール ほぼ動かない(例外は等級を上げること)
第3層:個人 スキル・実績・見せ方 動く

多くの記事は第3層から書き始めます。「スキルを磨きましょう」「資格を取りましょう」と。しかし第1層と第2層で天井が決まっている場合、第3層をいくら積み上げても、その天井は上がりません。努力の効き目は、いる場所によって変わります。

ですのでこの記事は、下の層から順に見ていきます。自分がどの層で詰まっているかが分かれば、打ち手は自然に絞られます。

飲食店でも同じ構図があります。同じ働きをしている社員でも、店の立地と業態で稼げる金額の上限が違う。本人の能力の話をする前に「その店はそもそもいくら稼げる店なのか」を見ないと、評価も給与も的外れになります。業種は違っても、ここは共通していると感じます。

まず現在地を測る|公的統計で見る本当の賃金カーブ

「上がらない」と感じていても、それが平均より下なのか、平均通りなのかで話は変わります。まず公的な数字を置きます。

情報通信業の賃金は、産業計より約3割高い

厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(2025年)によると、一般労働者(男女計)の所定内給与額は次の通りです。

区分 月額(所定内給与額)
産業計(全産業の平均) 340.6千円
情報通信業 444.0千円

出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」第2表・第5-1表

情報通信業は産業計を約30パーセント上回っています。つまり業界全体としては、賃金が低い業界ではありません。それでも「上がらない」と感じる人が多いのは、業界の内部で差が大きいからです。次にその中身を見ます。

年齢別|情報通信業の賃金は50代後半まで伸びている

同じ調査から、情報通信業の年齢階級別の数字を抜き出します。

年齢階級 情報通信業の月額 20〜24歳を100としたとき
20〜24歳 260.7千円 100
25〜29歳 309.9千円 約119
30〜34歳 379.5千円 約146
35〜39歳 448.8千円 約172
40〜44歳 500.4千円 約192
45〜49歳 524.7千円 約201
50〜54歳 548.0千円 約210
55〜59歳 583.3千円 約224

出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」第5-1表(情報通信業・男女計・所定内給与額)。右列の指数は同表の数値から算出しました。

これは同じ人を追いかけた数字ではありません。各年齢層の平均を並べたものです。50代の数字が高いのは、いまその世代がその金額を受け取っているという意味であって、いまの20代が同じカーブを描くという保証にはなりません。あくまで「現在の相場の形」として見てください。

それでも重要なことが読み取れます。業界平均としては、30代でも40代でも賃金は伸び続けているということです。20代後半から30代前半にかけて月額で約7万円、30代前半から後半でさらに約7万円上がっています。もしあなたがこの年代で数年間ほとんど昇給していないなら、それは業界の平均的な動きから外れているサインです。原因は業界ではなく、もっと手前の「いる場所」にある可能性が高いと考えられます。

雇用形態でも差が出る

同じ調査の第6-3表では、情報通信業の雇用形態別の数字が出ています。

  • 正社員・正職員:431.5千円
  • 正社員・正職員以外:358.0千円

出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」第6-3表

雇用形態間の賃金格差は、正社員・正職員を100としたとき約86.4です。他の産業と比べると格差は小さいほうですが、それでも存在します。

スキルレベル別|どの工程を担当しているかで年収中央値が変わる

もう一つ、職種と工程による差を示す公的データがあります。厚生労働省「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業」(令和6年3月公表)の年収中央値です。

職種 レベル3 レベル4 レベル5以上
企画立案・プロジェクト管理 750万円 800万円 900万円
設計・構築 550万円 635万円 700万円
運用・保守 550万円 650万円 850万円

出典:厚生労働省「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業」調査報告書(令和6年3月)

ここでのレベルは、IPA(情報処理推進機構)が示すITスキル標準(ITSS)の考え方に沿った区分です。同じレベル3でも、企画立案・プロジェクト管理と設計・構築で年収中央値に200万円の開きがあります。スキルの高さだけでなく、どの工程に立っているかが効いているということです。

核心|多重下請け構造で、あなたの単価はどう削られるのか

ここがこの記事の中心です。年収が上がらない理由として最も大きく、そして最も個人の努力が効かない部分です。

商流とは「案件があなたに届くまでに何社を経由したか」

日本のシステム開発の多くは、発注元(エンド企業)から一次請け、二次請け、三次請けへと仕事が流れていく形をとっています。この経由の深さを「商流」と呼びます。

問題は、各社を通過するたびにマージンが引かれることです。エンド企業が支払った金額のうち、実際に手を動かすエンジニアの会社に届く額は、経由が増えるほど減ります。そしてあなたの給与は、その「届いた額」から支払われます。

この構造は、業界の複数の解説記事や転職支援会社の公開情報で繰り返し指摘されているもので、目安として次のように説明されることが多くなっています。

次の表は、転職支援各社が公開している解説記事で示されている一般的な傾向を整理したものです。公的統計ではありませんし、案件・地域・時期によって大きく変動します。自社の実際の商流は、契約形態を自分で確認してください。

商流の位置 単価の傾向 起きやすいこと
元請け(プライム) 高い 要件定義から上流工程に関われる
二次請け やや下がる 設計から実装が中心になる
三次請け さらに下がる 実装・テスト中心になりやすい
四次請け以降 大きく下がる 工程が限定され、スキルの幅も広げにくい

ここで二重の不利が起きる

商流が深いことの本当の怖さは、単価が下がることだけではありません。単価が下がるのと同時に、任される工程が狭くなることです。

  1. 商流が深いと、単価が削られて給与の原資が減る
  2. 商流が深いと、要件定義や設計といった上流工程が上位の会社に留保され、下流の工程しか回ってこない
  3. 上流の経験が積めないため、転職市場で評価される実績がつくれない
  4. 実績がないため、上流に関われる会社へ移りにくくなる

この4番目が、次の年も同じ場所に留まる理由になります。単に安いのではなく、抜け出しにくい形で安い——これが構造の問題と呼ばれる理由です。先ほどの厚生労働省のスキルレベル別データで、企画立案・プロジェクト管理の年収中央値が突出して高かったことを思い出してください。その工程に近づけるかどうかが、そのまま年収の差になっています。

単価が上がっても給与に反映されないことがある

もう一つ、経験者からよく聞かれる不満がこれです。現場での評価が上がり、会社が受け取る単価も上がったのに、自分の給与は変わらない。

これには会社側の事情があります。エンジニアを他社に常駐させる形態の会社では、案件が途切れて待機している期間も給与を支払う必要があります。そのため単価の上昇分をすべて給与に回さず、内部に留保する運用になりやすい。この点は転職支援会社の解説でも構造的な理由として挙げられています。

それが妥当な経営判断かどうかは会社ごとに違います。ただ、「単価が上がれば自動的に給与も上がる」という前提は成り立たないとは言えます。単価と給与の連動ルールが明文化されているかどうかは、会社を選ぶときの確認ポイントになります。

SES・受託開発・自社サービス|年収カーブの形が違う

所属する会社の業態によって、年収の伸び方の「形」が変わります。金額の高低というより、どこで詰まりやすいかが違うと考えてください。

SES(客先常駐)|入口は広く、中盤で詰まりやすい

顧客先に常駐して技術力を提供する形態です。経験の浅い段階でも入りやすく、実務経験を積む入口としては機能します。一方で、前述の商流の影響を最も受けやすい業態でもあります。

詰まりやすいのは、実装担当のまま年数だけが増えるときです。単価が上がっても給与に反映されにくく、担当する工程が広がらないと市場価値も伸び悩みます。ただし、元請けに近い位置で上流工程を任されているケースもあり、一括りにはできません。判断材料は「社名」ではなく「いま自分が何次請けにいて、どの工程を任されているか」です。

受託開発|工程の幅は出るが、利益率に縛られる

顧客から開発案件を請け負って納品する形態です。要件定義から関われる会社であれば、上流の経験を積みやすいという利点があります。

一方で、給与の原資はプロジェクトの利益率に縛られます。受注時に決まった金額の中でつくるため、個人がどれだけ効率よく作っても、その分が給与に返る仕組みになっているとは限りません。早く終わらせるほど会社の利益が増えるだけ、という設計になっている場合もあります。評価制度に「生産性の向上をどう処遇に反映するか」が書かれているかを見てください。

自社サービス(事業会社)|事業と連動するが、席が少ない

自社のプロダクトを開発・運営する形態です。中間マージンが発生しないため単価という概念がなく、事業の収益が原資になります。事業が伸びれば給与も伸びる余地があります。

ただし良いことばかりではありません。採用の間口が狭く、求められる経験の水準も高い傾向があります。また事業が伸びなければ、当然、給与も上がりません。「自社サービスに行けば上がる」ではなく「上がる余地のある構造だが、確約ではない」が正確なところです。

フリーランス|額面は上がりやすいが、比べる数字が変わる

会社を通さないため、単価がそのまま自分の売上になります。額面だけを見れば上がりやすい形です。ただし比較するときは、次を差し引いて考える必要があります。

  • 社会保険料の会社負担分がなくなり、全額が自己負担になる
  • 案件が途切れた期間の収入がゼロになる
  • 有給休暇・退職金・各種手当がなくなる
  • 確定申告など事務作業の時間コストがかかる

会社員の年収とフリーランスの売上を、同じ土俵で比べないでください。手元に残る額と、収入が途切れたときの耐久力まで含めて見る必要があります。

社内評価制度の限界|実力があっても上がらない仕組み

商流の次に効いているのが、会社の給与制度です。ここは第2層の話になります。

在籍年数で上がる会社では、実力は加速要因にならない

昇給の根拠が主に在籍年数や年齢に置かれている会社では、成果を出しても昇給の幅がほとんど変わりません。この場合、あなたの実力は「昇給を早める要因」ではなく、評価コメントの内容にしか反映されないことがあります。

見分け方はシンプルです。同じ等級の人の年収レンジが、実力に関係なくほぼ揃っているかどうか。揃っているなら、その会社では個人の成果は給与にほとんど効いていません。

等級の上限が、そのまま年収の上限になっている

多くの会社の給与テーブルには、等級ごとに上限額があります。等級内で上限に達すると、どれだけ成果を出しても等級が上がらない限り年収は動きません。これは制度の設計上そうなっているのであって、上司が意地悪をしているわけではありません。

そして等級を上げるには、多くの場合、後述する「役割の変更」が必要になります。技術力の向上だけでは等級の要件を満たさないことが多い。ここを勘違いすると、努力の方向がずれます。

評価する人が、あなたの仕事を理解していないことがある

技術的に難度の高い仕事ほど、評価者がその難しさを理解できないという問題が起きます。障害を未然に防いだ、設計を工夫して後の改修コストを下げた——こうした仕事は「何も起きなかった」という形でしか観測されません

これは業種を問わず起きます。私が飲食店で15年、評価する側に立って痛感したのは、「問題を起こさない人」がいちばん評価から漏れやすいということです。トラブルを解決した人は目立ちますが、そもそもトラブルが起きない仕組みをつくった人は記録に残らない。評価する側の力不足なのですが、現実として起きます。ですので私は、メンバーには「やったことを自分で言語化して報告してほしい」と伝えるようにしました。自己申告は図々しさではなく、評価者を助ける行為です。

「市場価値」と「社内価値」はズレる

この2つは別物です。同じスキルでも、評価する場所が変われば値段が変わります。

比較する軸 社内価値 市場価値
評価される内容 社内システムへの習熟、社内の人間関係、独自ルールの理解 汎用的な技術、上流工程の経験、成果の再現性
持ち出せるか 持ち出せない(転職すると消える) 持ち出せる
効きやすい場面 社内の昇進・異動 転職・単価の交渉

長く在籍している人ほど、社内価値の比率が高くなりがちです。それ自体は悪いことではありません。ただし、社内価値が高いのに社内の給与テーブルが低い会社にいると、いちばん動きにくい状態になります。社内では重宝されるのに給与は上がらず、外に出ると評価されるものが少ない。この状態に長く留まらないよう、意識して市場価値側の実績を作っておく必要があります。

年収交渉|通るケースと、まず通らないケース

交渉を勧める記事は多いのですが、通る条件を書いている記事は少ないと感じます。ここを整理します。

通りやすいケース

  • 担当している役割が、給与に反映されるより先に広がっている場合。実質的にリーダー業務をしているのに等級が据え置き、といった状態です。制度側が遅れているだけなので、指摘すれば通る余地があります
  • 会社が受け取っている単価が明確に上がっている場合。連動のルールがある会社なら、根拠として機能します
  • 代替が難しい領域を担当している場合。ただしこれを交渉材料として押し出すと関係が悪化しやすいので、事実として示すに留めるべきです
  • 昇給の査定タイミングに合わせて事前に申し出た場合。決裁の枠が確定した後では、上司の側に権限が残っていません

まず通らないケース

  • 等級の上限に達している場合。上司に動かす権限がありません。この場合の交渉相手は「金額」ではなく「等級」です
  • 会社の業績が悪化している場合。原資がありません
  • 根拠が「生活が苦しい」「同年代より低い」だけの場合。会社が支払う根拠にはなりません
  • 年功で運用されている会社の場合。個別の例外をつくると制度が崩れるため、承認されにくくなります

切り出し方は「要求」ではなく「確認」から

交渉というと金額を要求する場面を想像しがちですが、経験者が最初にすべきなのは制度の確認です。次の順番をおすすめします。

  1. いまの自分の等級と、その等級の上限額を確認する
  2. 次の等級に上がるための要件を、具体的に確認する
  3. その要件に対して、いま何が足りていないかを聞く
  4. 足りないものを埋める計画を示し、達成したときの処遇を確認する

この進め方には利点があります。金額を要求する形にならないので関係が悪化しにくく、かつ「要件を聞いても明確な答えが返ってこない」こと自体が重要な判断材料になることです。上げる基準が言語化されていない会社では、努力の方向が定まりません。それが分かっただけでも、その面談には意味があります。

他社の内定を持ち出して条件を迫る方法は、短期的には金額が動くことがあります。ただし「この人はまた出ていくかもしれない」という前提を相手に残します。評価する側に立ってきた立場から言うと、これは中長期の任せ方に影響します。使うなら、その会社に残らない可能性も込みで判断してください。

転職以外の選択肢|先に検討する価値があるもの

年収の話になるとすぐ転職に飛びがちですが、コストが低い順に見ていくほうが合理的です。

社内異動|商流と工程を変えられる可能性がある

意外に見落とされるのがこれです。同じ会社の中でも、部署によって関わる案件の商流や工程が違うことがあります。元請け案件を扱う部署、自社プロダクトを持つ部署、上流を担当する部署。これらに移れるなら、転職と近い効果を、転職のリスクなしに得られる可能性があります

ただし給与テーブル自体は会社で共通であることが多いため、第2層(制度)の問題は解決しません。効くのは第1層の商流と工程の部分です。それでも、市場価値のある実績をつくる場所としては十分に価値があります。

役割を変える|技術力の向上とは別の軸

先ほど触れた通り、等級を上げるには技術力だけでは足りないことが多く、役割の変更が必要になります。具体的には、レビュー、設計、見積もり、進行管理、若手の育成といった領域です。

厚生労働省の調査でも、企画立案・プロジェクト管理の年収中央値が他の職種より明確に高く出ています。実装だけを続けるより、こうした領域に半歩踏み出すほうが等級要件に近づきやすいというのは、統計とも整合します。

管理側に回ることは全員にとっての正解ではありません。実装を続けたい人が管理職になり、仕事の満足度が下がることは普通に起きます。年収だけを基準にキャリアを選ぶと、後から戻りにくくなります。この点は記事の後半でもう一度触れます。

副業|金額より「市場価値の実測」に意味がある

副業で収入を足すという選択肢もあります。ただし本業のあとに稼働時間を積む方法は、時間あたりの効率が悪く、疲労が本業のパフォーマンスを削ることもあります。金額を増やす手段としては、そこまで効率的ではありません。

それより価値があるのは、自分のスキルが社外でいくらの値段になるかを実際に測れることです。社内評価しか知らない状態だと、自分が安いのか妥当なのか判断できません。小さな案件を1件受けてみるだけでも、その相場感は手に入ります。

なお副業は就業規則で制限されている場合があります。始める前に必ず自社の規定を確認してください。

資格|直接の昇給効果は限定的。使いどころが別にある

資格手当を用意している会社はありますが、金額は月に数千円から数万円程度に設定されていることが多く、資格そのもので年収が大きく変わるケースは限られます。

資格が効くのは別の場面です。

  • 書類選考の通過:実務経験を補強する材料になります
  • 会社側の受注要件:公共系の案件などで有資格者の配置が求められることがあり、その場合は会社にとっての価値が上がります
  • 学習の順序づけ:体系的に知識を整理する目的としては機能します

「資格を取れば年収が上がる」ではなく「年収を上げる動きを補助する道具」と考えるのが現実的です。IPAの情報処理技術者試験などは、知識を体系立てて確認する用途としては有用です。

転職する場合|順番を間違えないための手順

ここまで見て、第1層(商流)か第2層(制度)に原因があり、社内では動かせないと判断したなら、転職が選択肢に入ります。ただし順番があります。

先に現在地を数字で把握する

  1. いまの年収を、額面・手取り・賞与込みで正確に出す
  2. 自分の会社が受け取っている単価を、分かる範囲で確認する(分からない場合は、その事実自体が情報です)
  3. この記事の年齢別の表と照らして、平均に対する自分の位置を把握する
  4. いまの等級の上限額を確認する

ここを飛ばすと、転職先の提示額が高いのか安いのか判断できません。

次に、持ち出せる実績を棚卸しする

前述の「市場価値」に当たるものを、具体的に書き出します。

  • 担当した工程(要件定義・設計・実装・テスト・運用のどこか)
  • チームの規模と、その中での自分の役割
  • 使った技術と、その選定に関与したかどうか
  • 数字で言える成果(処理時間の短縮、障害件数の減少、コストの削減など)

ここで手が止まる項目があるなら、それが今後1年で埋めるべき部分です。実績が薄い状態で急いで動くより、社内で1つ実績をつくってから動くほうが、結果的に早いことがあります。

そのうえで求人を見て相場を確認する

応募するかどうかは別として、求人を見ること自体に情報の価値があります。自分の経験年数と技術で、どのくらいの提示額の求人があるのかが分かります。この段階では動く決断をしなくて構いません。

面談で必ず確認すべきこと

提示年収だけを見て決めないでください。次を確認しないと、入社後に同じ状態を繰り返すことになります。

  1. 商流:主にどの位置で案件を受けているか(元請けか、何次請けか)
  2. 担当工程:入社後に任される工程はどこか
  3. 給与テーブル:等級制度があるか、各等級のレンジはどうなっているか
  4. 昇給の実績:直近数年の平均昇給率、または昇給した人の割合
  5. 賞与の変動幅:提示年収に賞与が含まれる場合、その賞与が業績でどこまで変動するか
  6. 単価と給与の連動:常駐型の場合、単価の上昇が給与に反映される仕組みがあるか

4番と5番は特に重要です。提示年収が上がっても、その後まったく昇給しない会社に入れば、数年で元の状態に戻ります。年収は「入社時の額」ではなく「そこからの傾き」で見てください。

年齢別|打ち手が変わります

同じ「年収が上がらない」でも、年代によって取れる手が違います。先ほどの厚生労働省のデータで、情報通信業の賃金が年齢とともにどう動いていたかを踏まえて整理します。

20代|金額より、経験できる工程を優先する

統計上、20〜24歳の260.7千円から30〜34歳の379.5千円まで、この期間の伸び幅がいちばん大きくなっています。裏を返せば、この時期にどの工程の経験を積んだかが、後の傾きを決めます

いま数十万円の年収差を取りに行くより、上流工程に関われる環境、設計から入れる環境を優先するほうが、30代以降の差として返ってきやすい。20代で商流の深い場所に長く留まるコストは、金額以上に「積める経験の差」として現れます。

30代|構造の問題は、ここで決着をつけたい

30代は、実務経験があり、かつ年齢的にも採用する側が動きやすい時期です。統計でも30代前半から後半にかけて月額で約7万円上がっており、伸びしろのある年代です。

この年代で数年間昇給がないなら、それは第1層か第2層の問題である可能性が高い。「もう少し様子を見る」がいちばん高くつく年代だと考えたほうがいいでしょう。ただし焦って動くという意味ではありません。前章の棚卸しをして、実績を整えてから動くという意味です。

40代|金額より、任される範囲と継続性を見る

統計上は40〜44歳で500.4千円、45〜49歳で524.7千円と、金額そのものはまだ伸びています。ただし採用される側の条件は変わります。実装スキルだけで評価される場面は減り、チームや案件を任せられるかが見られるようになります。

この年代では、年収を上げること自体より「今後10年、その働き方を続けられるか」の比重が上がります。単価は高いが常駐先が毎年変わる働き方を、50代でも続けられるかどうか。ここは金額とは別の軸で考える必要があります。

採用する側に15年立ってきて思うのは、40代の採用で見ているのは技術そのものより「一緒に働く人が増えたときに機能するか」だということです。飲食での経験なのでIT業界でそのまま当てはまるとは言いませんが、任せられる範囲が広い人は業種を問わず替えがきかない、という点は共通するのではないかと思っています。

逆に「いま年収を上げに動かないほうがいい」ケース

ここまで上げる方法を書いてきましたが、動かないほうがいい場合もあります。これを書かない記事は不誠実だと思うので、正直に書きます。

いま上流工程の経験を積んでいる途中の場合

年収が横ばいでも、要件定義や設計に初めて関わっている最中なら、その経験は次の転職で効きます。1年待って実績を完成させてから動くほうが、提示額が上がることは十分あります。中途半端な段階で抜けると、経歴書に書けるものが残りません。

年収以外の条件が、金額に換算して大きい場合

次のような条件は、年収の数字には出ませんが実質的な価値があります。

  • フルリモートで通勤時間がゼロ
  • 残業がほとんどなく、家族との時間が確保できている
  • 学習の時間を取れる余裕がある
  • 体調や家庭の事情に配慮してもらえている

年収が50万円上がっても、残業が月40時間増えて通勤が往復2時間になるなら、時間あたりの条件は悪化しています。年収は労働時間で割って比べてください。

働き方を変えられない事情がある時期

育児や介護、自身の体調など、いま環境を変えること自体のリスクが高い時期があります。転職の直後は覚えることが多く、負荷が一時的に上がります。この時期に無理に動く必要はありません。年収を上げる機会は消えません。統計を見ても、賃金は40代・50代まで伸びる余地があります。

そもそも金額が不満の本体ではない場合

年収の不満として言語化されているけれど、本当の不満は「評価されていないと感じること」だった、というケースがあります。この場合、年収が上がっても不満は残ります。

切り分ける質問は一つです。「明日から年収が50万円上がったら、この仕事を続けたいと思えるか」。ここに素直に「いいえ」が出るなら、解くべき問題は年収ではありません。

実務経験を活かして動くと決めたときの進め方

ここまで読んで、原因が構造の側にあり、実績も整っていて、動く時期だと判断したなら、次は情報を集める段階です。

経験者の転職では、求人サイトを自分で見るより、いまの自分の経験がどの商流・どの工程の求人に届くのかを先に把握するほうが効率的です。この記事で繰り返し書いてきた通り、提示年収そのものより、その会社がどの位置で案件を受けているかのほうが、長期の年収に効くからです。

ITエンジニアに特化した転職エージェントは、こうした商流や担当工程についての情報を持っていることがあります。実務経験がある方であれば、応募を決める前の情報収集として面談を使うという方法があります。

以下で触れるサービスは、実務経験のある方(目安として2年以上)を主な対象としています。これからIT業界を目指す未経験の方には合いません。未経験の方は未経験からIT転職ロードマップ|何から始めるか順番で全解説のほうが役に立つはずです。

TechGo(テックゴー)はITエンジニアに特化した転職エージェントです。模擬面接の回数に制限がないこと、事前のキャリアアドバイザー面談と書類選考を通過した方が参加できる1Day選考会があることが公表されています。運営会社の公表値として、転職時の年収アップ額の平均は138万円とされています。ただしこれは平均値であり、誰もがこの額だけ上がるという意味ではありません。この記事で見てきた通り、上がり幅は現在の商流と移動先の商流の差で決まります。

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サービスの中身や評判についてはTechGoの評判・口コミは?「やばい」の真相と年収UP138万円の実態に詳しく書きました。

初めてエージェントの面談を受ける場合、何を聞かれるのか分からず身構えるかもしれません。流れと断り方についてはIT転職エージェントの無料面談は何をする?流れ・断り方まで全解説にまとめています。転職を決めていない段階での相談については転職エージェントは相談だけでもOK?迷ってる段階の使い方もあわせてどうぞ。

転職すれば年収が上がるとは限りません。この記事で見てきた通り、上がるのは商流や工程が実際に変わったときです。同じ商流・同じ工程の会社に移っただけなら、数年後に同じ悩みに戻ります。エージェントを使う場合も、提示額ではなくその会社がどの位置にいるかを確認してください。

よくある質問

スキルを上げれば年収は上がりますか

いる場所によります。等級の上限に達している会社、年功で昇給が決まる会社では、スキルを上げても年収は動きません。スキルが年収に直結するのは、成果と給与が連動する制度を持つ会社にいる場合か、転職市場に出たときです。スキルは無駄になりませんが、いまの場所で換金できるとは限らないと考えてください。

何年目で動くのが有利ですか

年数そのものより、上流工程の経験があるかどうかで変わります。ただし厚生労働省の統計では、情報通信業の賃金は20代後半から30代にかけての伸び幅が最も大きく出ています。この時期に経験を積める環境にいるかどうかは、後の年収に影響しやすいと言えます。

資格を取れば年収は上がりますか

資格手当がある会社では月に数千円から数万円程度の加算があることが多いのですが、資格だけで大きく年収が変わるケースは限られます。書類選考の通過や、会社が案件を受注する要件としての価値のほうが大きい場面が多くなります。

社内で年収交渉はできますか

できます。ただし金額を要求する形より、等級の要件を確認する形から入るほうが通りやすく、関係も悪化しにくいです。等級の上限に達している場合は、金額ではなく等級を上げる話をしないと動きません。

フリーランスになれば年収は上がりますか

額面は上がりやすいのですが、社会保険料の全額自己負担、案件が途切れる期間、退職金や有給がないことを差し引いて比べる必要があります。会社員の年収とフリーランスの売上は、そのままでは比較できません。

40代からでも年収は上げられますか

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、情報通信業の賃金は40〜44歳で500.4千円、45〜49歳で524.7千円、50〜54歳で548.0千円と、40代以降も上昇しています。ただし評価される内容が実装スキルから任される範囲へと移るため、打ち手は20代・30代とは変わります。

いまの会社に不満はないのに年収だけ低い場合はどうすればいいですか

まず等級制度と上限額を確認してください。制度上まだ余地があるなら、社内で動くほうがコストは低くなります。余地がなく、かつ働き方の条件が良いなら、その条件を金額に換算したうえで比べてください。年収だけを基準に動くと、条件の良さを失って後悔することがあります。

自分の単価は聞いてもいいものですか

常駐型の場合、自分の単価を会社に確認すること自体は不自然な質問ではありません。ただし開示しない方針の会社もあります。開示されないという事実自体が、給与の決まり方についての情報になります。

まとめ|努力の前に、いる場所を確認する

この記事の要点を整理します。

  • 年収は「商流」「制度」「個人」の3層で決まり、下の層ほど個人では動かせない
  • 情報通信業の賃金は産業計より約3割高く(令和7年賃金構造基本統計調査で444.0千円に対し340.6千円)、業界そのものが低いわけではない
  • 同じ調査で、情報通信業の賃金は50代後半まで上昇している。数年間昇給がないなら平均から外れている
  • 商流が深いと、単価が削られると同時に上流工程の経験も積めず、抜け出しにくくなる
  • 等級の上限に達している場合、交渉すべきは金額ではなく等級
  • 社内異動で商流と工程が変わるなら、転職と近い効果が得られることがある
  • 転職では提示額より「そこからの傾き」と「その会社の商流」を確認する
  • 上流の経験を積んでいる途中、条件が良い、事情がある時期は、動かない判断も正しい

年収が上がらないとき、多くの人はまず自分を責めます。ですが公的な統計を見る限り、この業界の賃金は年齢とともに上がる形をしています。そこから外れているなら、まず疑うべきは自分の能力ではなく、いま立っている場所です

場所を確認して、それでも変えられないと分かったときに、初めて移動を考える。順番はそれで十分間に合います。

キャリア全体の道筋を整理したい方は未経験からIT転職ロードマップ|何から始めるか順番で全解説もあわせてご覧ください。

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